【イベント投資】1906細田工務店のTOBの投資機会分析
はじめに
今回は12月に公表された長谷工コーポレーションによる細田工務店(1906)のTOB分析記事を書いてみました。なお、筆者は既に同社株を買っており完全にポジショントークです。ローリスクローリターンと思ってますが、イベント投資の練習でインしました。
最後の項目に主観ですが期待リターンも記載しています。
背景・経緯
- 2019年12月19日、株式会社長谷工コーポレーション(以下、「長谷工」)は株式会社細田工務店(以下、「細田工務店」)(証券コード1906)の全株式取得を目的としたTOB決議を発表。期間は2019年12月20日-2020年2月4日。本TOBに対し細田工務店は賛同及び株主への応募推奨を決議。
- 長谷工は公表時点で細田工務店の株式を保有しておらず、買付比率下限はスクイーズアウトの特別決議可能となる66.7%。うち35.45%については公開買付応募契約を締結済みにて実質残り31.25%につき買付けが必要。
細田工務店
- 事業内容は分譲住宅の設計・施工・販売。
- 用地取得の競争環境激化による仕入れ価格上昇、競争激化による顧客への値引販売により棚卸資産の評価損を計上したほか、販売数量も計画より大幅未達となり、12月19日の長谷工によるTOB公表と同時に業績見通しの下方修正(従前見通し対比約▲3億円)を発表。
- 従前より業績振るわず資本提携を含む各種資本増強策を検討する中、複数社との提携を検討するも実らず、最終的に同社との事業補完シナジー有る長谷工にアプローチ、協議の結果TOB実施となったとのこと。
- 12月19日主要株主構成は以下の通り。現状長谷工による持分無し。
長谷工コーポレーション
対抗TOBの可能性
TOB価格の妥当性・価格引き上げ余地
- 12/24現在、終値132円。TOB価格より若干高く推移しており、価格引き上げ余地及び敵対的買収の可能性を多少織り込んでいると考えられるものの、略TOB価格と同水準にて市場の期待薄い状況。
- 尚、TOB価格130円のプレミアム水準は対前日終値44%/対1mVWAP 15.04%/対3mVWAP 18.18%/対 6mVWAP 19.27%。一般的にTOBに際しては最大40%-50%程度のプレミアムを加味することもあることを考慮すると、市場価格に対するプレミアムの観点では価格引き上げ余地有り。
- TOB価格130円/株でのPBRは約0.5倍と、完全子会社化し同社BSを連結する長谷工としても大幅に割安感あり、事業シナジーも考慮すると更に割安の可能性高い。
- 長谷工は適時開示内にてBPS金額との大幅乖離につき、細田の資産の流動性が低いことに鑑み流動化の際に必要となるディスカウントを要因として挙げているが、如何に流動性が低くとも50%ディスカウントという比率は長谷工グループへの加入による同流動性の改善も勘案すると大きすぎるとの感触。
- 尚、TOB公表前の市場価格の低PBRは細田単体にて事業継続した場合業績低迷による将来的な更なる価値棄損を織り込んでいると考えられる。
- 長谷工によるとTOB価格130円は長谷工グループ傘下になることによる調達合理化等、コスト低減効果は織り込む一方、他シナジー効果については定量化が難しく織り込んでいないとのこと。
- 尚、長谷工による当初128円の提示→交渉を経て130円にて再提示の後、細田工務店の特別委員会は細田工務店側FAによる公正価値算定を基にシナジー効果の織り込みによる更なる値上げ交渉をしているが、長谷工側から前述説明により却下されている。
- 130円は細田工務店FAによる算定価格のうち、市場価格法の上限を上回っている一方、DCFに関してはレンジ(91円-141円)の中央値を上回る水準感。TOB価格をなるべく引き上げたい細田工務店サイドのバリュエーションは相応にストレッチを利かせていると考えられ、同前提にたつとバリュエーション上は130円という価格はニュートラルな価格であるとも考えられる。
- 一方で現実的にTOB成立確度を高めるためのTOB価格引き上げの可能性は長谷工・細田ともに一定程度認識しているはずにて、前述通り細田側は更に高い価格での買収を依頼していた経緯も考えると一定のバッファーを残した形で合意している可能性も残る。
- 公開買付株数を満たさずTOB不成立となる可能性につき、上記通り価格引き上げ余地大きく、仮に2月4日までに成立する見通しが立たない場合も直ぐにTOB取り下げとなる可能性より、一旦価格引き上げによる成立を図る可能性が高いと考えられる。ディール自体が小規模であり価格引き上げによる取得金額へのインパクトも長谷工にとっては僅少。
- TOB成立となった場合も全量取得意向であることから応募により確実に持分処分が可能なほか、スクイーズアウトによる残存株主への金銭交付もTOB価格と同価格にて実施する旨公表されており、130円にて取得する限り、TOB成立時において損失発生のリスクは略ないと考えられる。
- 130円近辺にて市場で株域取得できた場合を前提とすると、本件唯一のリスクはTOB不成立となり大幅に市場価格が下がることだが、すでに公開買付の応募契約にて一定数の株式の応募確約がされていること、細田は本資金支出がない限りにおいて相応に事業状況が厳しい状態であることに鑑み、本件成立のために長谷工側と相応に密に連携していると考えられ、上記TOB価格引き上げ余地も考慮するとTOB不成立になる可能性は低いと判断する。
シナリオ・期待値分析
シナリオ毎のリターンは以下の通りと想定しました。TOB成立可能性がそれなりに高いので、期待リターンはあまり良くないですね。
①TOB成立
③TOB価格引き上げ:成立見通しが立たず価格引き上げ
④TOB不成立:成立せず取り下げ
シナリオ |
実現確率 |
リターン |
期待値 |
① |
70% |
+0% |
+0% |
② |
10% |
+15% |
+1.5% |
③ |
10% |
+8% |
+0.8% |
④ |
10% |
▲15% |
▲1.5% |
合計 |
100% |
|
+0.8% |
あとがき
こういうTOBとかって登場人物の思惑や会社が買われることになった経緯とかが知れて面白いですね。細田側がさらにTOB価格の引き上げを要求して却下されるところ等、生々しい(笑)
初めての記事なので不慣れな部分はご容赦ください。読んでみた感想等もいただけると励みになります。
最後になりますが、あくまで個人の意見なので、投資は自己責任でお願いします。
最後まで読んでいただき有難うございました。